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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)393号 判決 1974年2月08日

主文

原判決中、第一審判決添付目録記載の不動産について上告人が被上告人らに対して売買による所有権移転登記請求権を有しないことを確認する部分を破棄し、右部分に関する被上告人らの訴を却下する。

その余の上告を棄却する。

上告費用は、上告人の負担とする。

理由

上告代理人山本諌、同小越芳保の上告理由について。

被上告人らの上告人に対する本件予備的請求に関する訴(原審昭和四一年(ネ)第五四六号事件。以下本件訴という。)の適否について考えるに、記録及び原判文に徴すれば、被上告人らは、昭和二八年一〇月一日被上告人らを売主、上告人を買主として締結された被上告人村田所有の第一審判決添付目録記載の八筆の土地(以下本件土地という。)の売買契約が、同二九年三月二一日被上告人らより上告人に対し既収解約手附金の倍額一〇万円を現実に提供して解除権行使の意思表示をしたことにより解除されたから、本件土地の所有権は依然として被上告人村田に属するものであるにもかかわらず、上告人が右売買契約解除の効力を争い、今なお被上告人らに対しその履行を求めていると主張し、原審昭和四一年四月一六日受付の請求の趣旨変更申立書により本件土地が被上告人村田の所有であることの確認を求め、さらに原審昭和四四年一月一六日受付の控訴の趣旨訂正申立書により、本件土地につき上告人が被上告人らに対して売買による所有権移転登記請求権を有しないことの確認を求めたところ、原審が昭和四六年二月二三日右両請求を認容したものであることは、明らかである。一方、上告人を原告、被上告人らを被告とする神戸地方裁判所昭和二九年(ワ)第六八七号売買契約存在確認等請求事件(以下別件訴という。)において、上告人は、昭和二八年一〇月一日上告人と被上告人らとの間に締結された本件土地ほか二筆の土地の売買契約により右土地の所有権を取得したと主張し、同裁判所昭和三八年一〇月一六日受付の準備書面をもつて、被上告人らに対し、上告人より被上告人らに対する売買残代金三八五万五八七〇円の支払と引換に本件土地ほか二筆の土地につき売買による所有権移転登記手続を訴求し、現に右事件が同裁判所に係属しているものであることは、記録に徴して認められる。

ところで、確定判決の既判力は、主文に包含するもの、すなわち訴訟物として主張された法律関係の存否に関する判断の結論そのものについて及ぶだけで、その前提たる法律関係の存否にまで及ぶものではなく(最高裁昭和二八年(オ)第四五七号同三〇年一二月一日第一小法廷判決・民集九巻一三号一九〇三頁参照)、本件の場合、本件土地ほか二筆の土地の売買契約による所有権に基づき右土地の所有権移転登記手続を求める別件訴につき、仮にこれを認容する判決が確定しても、その既判力は基本たる所有権の存否に及ばないから、後訴である本件訴のうち所有権の確認を求める請求に関する部分は、前訴である別件訴と重複して提起された訴として民訴二三一条の規定に違反するものと解することはできない。そうすると、この点に関する所論は採用することができない。しかし、別件訴と本件訴のうち被上告人らが上告人に対し本件土地売買による所有権移転登記請求権を有しないことの確認を求める請求に関する部分は、いずれも同一の当事者間において、本件土地の同一の売買契約に基づく所有権移転登記請求権につき、前者が積極的にその存在を前提として登記手続を求め、後者が消極的にその不存在の確認を求めるものであつて、両請求にかかる判決の既判力の範囲は全く同一であるから、本件訴のうち登記請求権不存在の確認を求める請求に関する部分は、民訴法二三一条の重複起訴の禁止に抵触するものといわなければならない。そうすると、この点に関する所論は理由があることに帰し、被上告人らの本件訴のうち、所有権移転登記請求権不存在の確認を求める請求に関する部分は不適法として却下すべきであるから、これを認容した原判決は破棄を免れない。

同代理人の上告理由(補充)並びに上告人の上告理由第一点及び第三点について。

本件売買の目的物は、本件土地八筆に限定されており、上告人主張の一六四番の六山林及び一六四番の七山林の二筆の土地が含まれていたとは認められない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係とその説示に照らして、首肯するに足り、その過程に所論の違法は認められない。

同第二点について。

記録及び原判決の引用にかかる第一審判決事実摘示によれば、上告人は、所論一六四番の七山林を二三歩と主張していることが明らかであるから、原判決には所論の違法はない。

同第四点ないし第六点について。

本件売買契約における手附金が、一旦金三万円として契約書に記載され授受されたが、被上告人村田の要求により残額は後日に支払われることとして金一〇万円と改訂され、上告人より昭和二八年一〇月一八日に右残額の内金二万円が支払われたので、本件売買における手附契約が右現実に授受された合計金五万円についてのみ成立した旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係とその説示に照らして、首肯するに足り、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。

同第七点について。

被上告人らが、昭和二九年三月二一日、上告人に対して既収手附金の倍額一〇万円を現実に提供して契約解除の意思表示をした旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。

同第八点および第九点について。

被上告人らの契約解除前、上告人が本件売買の履行に着手したとは認められない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯するに足り、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。

同第一〇点について。

手附契約は、現実に授受された金員の範囲を超えて成立するものではなく、したがつて、上告人主張の一〇万円が供託されたとは認められない以上、被上告人らが現実に受領した手附金五万円の倍額一〇万円を提供してした解除権の行使が有効である旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。

同第一一点および第一二点について。

本件手附金が民法五五七条所定の解約手附であり、被上告人らが現実に受領した手附金五万円の倍額一〇万円を提供してした本件売買契約の解除は有効である旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。

同第一三点について。

上告人主張の各承諾書の交付および抵当権設定登記の抹消登記が本件売買の履行とは何ら関係のないものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係とその説示に照らして首肯するに足り、その過程に所論の違法は認められない。

同別紙上告理由書五二頁一二行目以下の上告理由について。

所論の各点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係とその説示に照らして、首肯するに足り、原判決に所論の違法は認められない。(なお、上告人提出の昭和四七年二月五日付上告理由補充書、同四八年二月二八日付上告理由補充書は、いずれも上告理由提出期限後に提出されたものであるから、判断を示さない。)

よつて、民訴法四〇八条、二〇二条、九五条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田 豊 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎)

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